Pinot Noir

ピノノワール全解説

ピノノワールといえば、世界中のワインラヴァーを虜にするほど大変魅力的で人気のあるぶどう品種です。 世界で最も高値で取引される赤ワイン「ロマネ・コンティ」も、ピノノワール種で造られています。他にもピノノワールで造られるワインにはとても高価なものが多いのが特徴です。

なぜ、そこまで高価であり、多くの人を虜にするほどの魅力をもっているのでしょうか? 今回はその理由を紐解いていきたいと思います。

ピノノワールってどんなブドウ品種?

ピノノワールは、赤ワイン用に栽培される黒ブドウ品種の一つであり、カベルネ・ソーヴィニヨンと並ぶ定番品種です。 原産地はフランスのブルゴーニュ地方と言われており、4世紀にはすでに栽培されていたとされています。

ピノノワールは栽培が容易ではない、とても気難しい品種です。 ぶどうの果皮が非常に薄く繊細、小ぶりで実が密着していることから、カビ病などの病気にかかりやすく、収穫量が激減することもあります。 また、早熟であるため、温かい気候の下では成熟しすぎてしまい香りや酸を失ったぶどうになるため、比較的冷涼な場所でないと上手く育ちません。 ぶどう栽培時だけでなく、製造途中においても、繊細でやさしいプロセスが必要になる品種なのです。 それ故に、ブルゴーニュ以外で良質なピノノワールの赤ワインを造るのは不可能とまで言われていました。

しかし、そんなとっても手のかかるピノノワールですが、世界には多くのファンが存在します。 消費者だけでなくワインの造り手までをも魅了するほどで、ピノノワールに挑戦する造り手は数多くいます。 手のかかる子ほど可愛いとは良く言ったものですよね。

果敢に挑戦する造り手たち、そして栽培技術や醸造技術の向上も目覚ましいものがあり、 さまざまな努力の甲斐があって、今では他の産地でも良質なピノノワールの赤ワインが造られるようになっています。

ピノノワールは単一品種で造られる

さらに特筆すべきことは、ピノノワールのワインは単一品種、つまり異なる種類のぶどうをブレンドせずに、ピノノワール種のみで造られることが多いということです。

フランスの他のワイン産地、例えばボルドーはカベルネ・ソーヴィニヨンとメルロなどをブレンドし造られます。 そうすることで、複雑な味わいを生み出したり、毎年の味わいを一定に保ったりすることができるというようなメリットがあります。

しかしピノノワールは一部のワインを除き、基本的にはピノノワール単一で造られます。 いったいなぜなのでしょうか? それは、ピノノワールは他の品種や産地と比べて、特に’’畑’’に敏感であることがあげられます。 つまり、多くの造り手はぶどう品種そのものの個性だけでなく、畑(土壌)の個性もワインに反映させようとしているからです。

「単一で造られる」と聞くと、単調な味わいなのでは? と思う方も多いかもしれません。 ところがなんと畑の個性を活かした、単一から生まれる複雑性には目を見張るものがあるのです。 それが、世界中でピノノワールに魅了され続けるワインラヴァーが多い理由でもあります。 そんなピノノワールの味わいについて見ていきましょう。

ピノノワールの味わいの特徴

ピノノワール全解説

まず、ピノノワールで造られる赤ワインは、色合いがとても薄く、タンニンが控え目で柔らかい印象です。それと同時になめらかな質感にキレイな酸が全体を引き締め、エレガントなワインになります。一言で表現するならば 「ピュアな果実になめらかなタンニンのエレガントワイン」でしょうか。

同じ赤ワインの定番品種であっても、濃く、渋みのあるしっかりしたカベルネ・ソーヴィニヨンとは見た目も味わいも正反対のものになります。 また、一口にピノノワールと言っても、若いものから熟成されたものまでさまざまです。 ここでピノノワールの特徴として良くあげられる表現をご紹介しますね。

比較的’’若い’’ワインでは、バラやスミレのような華やかなお花の香りや、ラズベリー、いちご、フランボワーズといった、かわいらしい印象の赤果実の香りが感じられます。 渋みも少なく、程よい酸味が心地よい比較的軽めのワインです。 ライトボディからミディアムボディのものがほとんどで、初心者でも飲みやすいと感じるのではないかと思います。

また、ぶどう畑の位置や、造り手、醸造方法、熟成期間によってさまざまな香りや味わいに変化します。 なめし革、枯れ葉、紅茶の葉、森の下草、トリュフの芳香、スモーキーでスパイシーなど、その香りの複雑さは言葉では言い表せないほどです。

これほどまでに複雑になるのは前述した’’畑’’の概念が強いからなんです。それについては、後ほどご紹介しますね。

ぜひ一度さまざまな価格帯のピノノワールを試してみてください。 同じピノノワール単一で造られたとは思えない程の違いを実際に感じることができるはずです。

こんなワインが好みの方には是非ピノノワールを試して欲しい!

軽めのワインがお好きな方には特におすすめのピノノワール。 とにかく渋いワインが苦手!という方にはピッタリです。 特に、比較的お手頃なピノノワールであれば、軽やかで涼しげのあるタイプが多く、少し冷やして飲んでも美味しいのでおすすめです。

また意外にも和食と相性が良いのがピノノワール。出汁、醤油やみりん、砂糖を使うような’’和食ごはん’’やタレの焼鳥などとよく合います。ぜひ普段のご飯と合わせてみて下さい。

産地別に見るピノノワール

ピノノワール全解説

フランスブルゴーニュのピノノワール

ブルゴーニュはピノノワールのルーツとなる産地です。品種の個性だけでなく、畑の個性を大切にしている代表的な産地になります。

ここで、ピノノワールの複雑性のカギとなる畑のお話しをさせていただきますね。 ブルゴーニュは南北に長い産地で、特に上質なピノノワールの赤ワインが造られるのは、北部のコート・ド・ニュイと言われる地域です。 ジュヴレ・シャンベルタン、ヴォーヌ・ロマネ、シャンボール・ミュジニー、エシェゾーなど、名だたる村が存在するピノノワールの聖地であります。

冒頭で出てきたロマネ・コンティは、ヴォーヌ・ロマネ村のロマネ・コンティ畑のピノノワールで造られているワインのことです。 ロマネ・コンティはワインの名前でもあり、畑の名前でもあるんです。 ブルゴーニュでは畑のことを総称して’’クリマ’’と呼んでおり、土壌、日の当たり具合、水はけの良し悪しなどによって明確にモザイク状に区画が分けられています。 そんな’’クリマ’’は2015年にユネスコ世界遺産に登録されたほどです。

さらに畑によってランク分けがされていて、上位の畑(1級畑・特級畑と呼ばれます)には、ロマネ・コンティのようにそれぞれ名前がついていて、高級ワインが多く造られています。 いかに、畑を大事にしているかがお分かり頂けるのではないでしょうか? そんな想いの込められた畑で造られたぶどうを、安易に他品種とブレンドしてしまってはもったいないですよね。

ピノノワールの聖地で造られるワインは実にさまざまです。たった数十メートル離れた隣りあう畑で造られたワインであっても全く違う味わいになり、その複雑さこそがブルゴーニュであり、追求しようと夢中になるファンが後を絶たない所以です。 一度ハマってしまうと抜け出せない魅力がありますが、ぜひブルゴーニュのいろんなワインを試して頂きたいものです。

フランスシャンパーニュのピノノワール

フランスではブルゴーニュ以外にも、シャンパーニュ地方でピノノワールが栽培されています。といっても、そのほとんどが赤ワインではなく、’’シャンパン’’です。

ピノノワールはシャンパンにも使われる品種で、特有のエレガントさとコクを出してくれる役割があります。シャンパンが他のスパークリングワインよりも高価なのは、その製法の違いもありますが、厳選されたピノノワールを使っているということも理由の一つとしてあげられます。

ドイツのピノノワール

ドイツワインと聞くと、白の甘口ワインを想像する方が多いのではないのでしょうか? 確かに白ワインが中心の国ではありますが、1995年以降は、世界的な赤ワインブームが後押ししたこともあり、ドイツ国内で赤ワインへシフトしようとの動きが始まりました。

ドイツの冷涼な気候にピッタリの品種は何なのか? そこで白羽の矢が立ったのがピノノワールです。 ピノノワールは、ドイツ名でシュペートブルグンダーと呼ばれており、現在ではフランス、アメリカについで3位の栽培面積を誇っています。

ドイツ国内でも特にブルゴーニュの気候によく似ているバーデンと呼ばれる産地が、高品質なピノノワールワインを多く生み出しています。 エレガントながらも少し膨らみのあるイメージがあります。 ブルゴーニュワインとは違ったエレガントさをぜひ楽しんでみてください。

ニュージーランドのピノノワール

ニュージーランドは南半球に位置するものの、緯度がフランスとほぼ同じであるため、ワイン造りが盛んな国です。そのため早くからピノノワールの栽培に取り組んでおり、’’ワイン新興国のピノノワールの敵地’’として高い評価を得ています。

特にブルゴーニュの気候によく似ていると言われているマーティンボローや、南島のセントラルオタゴなどで、高品質なピノノワールが栽培されています。 酸がきれいに溶け込んでいてブルゴーニュを感じるレベルの高いものがたくさんあり、個人的にも驚かされることが多々あります。

またニュージーランドのワインはコルクではなく99%がスクリューキャップを採用しています。コルクをあけるのが・・・というような初心者の方でもとっつきやすく、気軽に飲めるのでとてもおすすめです。

イタリアのピノノワール

隣国フランスから持ち込まれたピノノワール。イタリアでは、’’ピノ・ネロ’’と呼ばれています。イタリア国内では土地の個性などから様々なスタイルが見受けられます。 とはいえやはり冷涼な気候を好むピノノワールなので、イタリア北部での栽培がほとんどです。

北部ロンバルディア州で造られたピノ・ネロは、瓶内二次発酵と呼ばれるシャンパーニュ製法で造られる上質なスパークリングワインの原料としてよく使われています。 またイタリア最北のトレンティーノ・アルト・アディジェ州はアルプス山脈に位置していて標高が高い冷涼地のため、ピノ・ネロの栽培に最適とされています。

ここで造られる赤ワインは、キレイなミネラルと酸が豊富な、イタリアらしいチャーミングなワインという印象があります。

アメリカのピノノワール

アメリカ、特にオレゴン州はピノノワールの栽培面積が6割も占めているほど盛んな州です。現在非常に多くの種類の高品質なピノノワールが生産されています。 実は、そこまでの規模となったのには大きなきっかけがあるのです。

1980年にブルゴーニュで行われた、ピノノワールブラインドテイスティングにおいて、オレゴン・ピノノワールが第2位に入賞。そのことでオレゴン州のピノノワールが世界に知られるようになりました。 特にウィラメット・ヴァレーと呼ばれる産地は、フランスと同じ北緯45度で冷涼な気候であることから、世界中の評論家の間でも注目を浴びている産地となっています。ぜひ一度試してみてくださいね!

オーストラリア ヤラ・ヴァレーのピノノワール

ピノノワール全解説

オーストラリアって暑い国なのにピノノワール?と思われた方も多いと思います。 暑いイメージのあるオーストラリアでも、実はピノノワールの栽培に適した地域はいくつかあり、かなり上質なものが産出されています。

メルボルン近くのヤラ・ヴァレーは特に、オーストラリアの中でも最高級ピノノワールを産出する産地のひとつ。ブルゴーニュの良質なピノノワールに匹敵するほど、洗練されたワインを生み出しています。

オーストラリアタスマニア州のピノノワール

ここはオーストラリアの中でもかなり寒く、空気・水がとっても綺麗、フランスやドイツでも見られる海洋性気候ということもあり、ぶどう栽培に適している密かに人気の産地なのです。

特にここのピノノワールで造られるスパークリングワインは本当に魅力的。赤ワインも、酸が若々しくイキイキと感じられ、冷やして飲んでも美味しい赤、というような印象です。 オーストラリアって暑いし、果実味豊かな重めワインのイメージがあるかもしれません。もちろんそれも美味しいですが、ピノノワールで造られる’’エレガント’’な良質ワインもたくさんあるので、ぜひ試して頂きたいです。 オーストラリアのワインのイメージががらっと変わるかも知れませんね。

【+wine編集部より】+wineのピノノワールでオススメのワイン

ここで、+wineより今一押しのピノノワールを数本ご紹介します。

まずは、「イエリングステーション」のピノノワール。こちらはオーストリアのピノノワールですが、3,000円以下とは思えない完成度の1本です。イチゴやラズベリーの香りに、きめ細かいタンニン、エレガントな酸が心地よく、国内外からの評価も非常に高いピノノワールですので「王道の美味しいピノが飲みたい」という方には持ってこいの1本と言えるでしょう。

次におすすめしたいのが、「フラワーズ」のピノノワール。こちらはアメリカのカリフォルニア、ソノマコーストのワイナリーのピノノワールです。有名ホテルやレストランでの取り扱いも多く、ワイン評論誌やウェブサイトで高い評判を得ている1本で、バラの香りや紅茶の香りなどピノノワールらしい複雑みが楽しめる1本。ボトルのデザインもエレガントなので、ギフトにも最適です。

最後におすすめしたいのが、王道フランスブルゴーニュのピノノワール。ドメーヌアンベルフレールのジュヴレシャンベルタンです。ジュヴレ・シャンベルタンのワインだけあって、価格はお高めですがその味は1級畑レベル。まさに「本物のピノ」といった仕上がり。日本への輸入量が少ない貴重なワインですので、特別な日に是非。

まとめ

ピノノワール全解説

なんといっても、ピノノワールは畑の個性がより濃く表現される品種です。 気候、土壌、そして気難しい繊細なぶどうの個性、生産者の個性、全てが完ぺきに繋がってより良いワインが造り出されます。

造り手はその追求心で難しい品種に挑戦し続け、ピノノワールファンたちも、それを追い求めてしまうのです。 それがピノノワールの魅力です。