Merlot

赤ワインメルロー徹底解説

メルローってどんなブドウ品種?

メルローはフランス南西部ボルドー地方原産の重要ブドウ品種です。

主にボルドーのポムロール地区、サン・テミリオン地区で造られる一大スター品種。ブドウは房も粒も大きく、果皮はやや薄い傾向です。

そんなメルロー栽培には多くの利点があります。気候を選ばず育てやすいところ、早熟で環境変化に対応する力が高いところなどが挙げられます。同じボルドーのスター品種、カベルネ・ソーヴィニヨンに比べてタンニン(渋み)の含有量は少ないため、仕込んでから早く飲み頃を迎えることも利点になるでしょう。

深みのある色合い、渋みは中庸できめ細かなタンニンのため、酸味はとてもおだやかで、果実味に富んだ柔らかいワインです。このように賢く優しい味わいのメルローが、世界中で栽培される理由は頷けます。

メルローを語る上で外せない大切なことがいくつかあり、その中でも今回は4つ紹介したいと思います。

メルローの重要要素①ボルドー地方の地形

1つ目は、ボルドー地方の地形です。

華やかなワインの聖地、ボルドー地方には三本の大きな川が流れています。南から流れるガロンヌ河、東から流れるドルドーニュ河、ボルドー市の少し北でそれらが交わり一本の河になり、ジロンド河と名を変えます。

川下に向かって左手側の左岸、右手側の右岸のそれぞれで土壌や栽培品種が大きく変わります。左岸は砂利質で水はけがよく、カベルネ・ソーヴィニヨン向きの土壌。一方、右岸は粘土質の土壌で、メルローが主品種となります。

メルローは乾燥に弱いため、この粘土質の土壌がとても適しているのです。この土壌がボルドーのメルローに大きな光を与えることになりました。

メルローの重要要素②高級ワインの主要品種となっている

2つ目は、メルローがポムロールやサン・テミリオンで造られる煌びやかな高級ワインの主要品種であること。

世界で最も高価なワインとしても知られるグラン・ヴァン「シャトー・ペトリュス」。ワイン愛好家なら一度は飲んでみたい憧れのワインです。

ポムロール地区の小さなブドウ畑から造られる最高峰のメルローを使用して造られています。生産本数はとても少なく、ほとんど市場に出回らない、まるで神話のようなワインです。

また同じくポムロール地区から一躍彗星のごとく現れたシンデレラワイン「シャトー・ルパン」。1982年のヴィンテージでは、世界的なワイン評論家ロバート・パーカーが満点をつけ、ボルドーファンに大きな衝撃を与えました。今や押しも押されもせぬ高級ワインの代名詞です。

サン・テミリオン地区では、格付けトップに君臨する「シャトー・シュヴァル・ブラン」。「白馬」という美しいワイン名を持つ正真正銘サン・テミリオンの雄です。

第一特別級Aに堂々君臨するシャトーの1つであり、サン・テミリオン地区のメルローを使った赤ワインと言えば、この「シャトー・シュヴァル・ブラン」の名が最初にあがるでしょう。

実は2022年9月、サン・テミリオンの格付けから自ら撤退したというニュースがありました。単純に格付けの基準にワイナリーが当てはまらないことが、撤退を決断した理由だと述べていますが、きっと格付けに捕らわれないという決意の表れではないでしょうか。

これからの動きが楽しみです。

メルローの重要要素③価格帯が幅広い

3つ目は、メルローが高級ワインの主要品種でありながら、リーズナブルな日常ワインまで存在し、価格帯がとても幅広い点。

特別感のある憧れのワインとしての楽しみ方、身近な1本としても日常的に楽しめるワインとして、様々な表情を見せてくれます。

④ルローの重要要素④日本ワインにも大きな影響がある

4つ目は、メルローが日本ワインに大きな影響を与えている点。

長野県塩尻市を中心にメルローの栽培が行われ、高級ワインに育っているのをご存じでしょうか。

「シャトー・メルシャン桔梗ヶ原メルロー」は日本ワインの新たな扉を開いたとも言える、画期的なワインです。2022年11月には「シグナチャー 〜日本を世界の銘醸地に〜」という映画でも描かれ話題になりました。

そのほかイタリアのトスカーナ、アメリカのカリフォルニア州のナパ・ヴァレー、チリ、オーストラリアなど世界中でメルローを使ったワインが生まれています。ポムロールのようにメルローを単一品種ワインとして造る場合と、ブレンドに用いられる2番手の品種として活躍する場合があります。ワインにメルローを加えることで、味わいに果実味とまろやかさを加えてくれるのです。

メルローを一言でイメージすると、柔軟、優しい、やわらかい、丸い、しなやか、賢い、気品、華やか、社交性。人になぞらえると「社交界の貴婦人」でしょうか。

今回はそんなメルローをじっくりご紹介していきたいと思います。

メルローの味わいの特徴

赤ワインメルロー徹底解説

メルローの味わいの特徴は、豊かで優しい果実味があること。味に丸みがあり、プルーンやブラックベリーなどの果実を感じさせます。熟したアロマ、土のようなニュアンスも。

カベルネ・ソーヴィニヨンに比べて、タンニンが柔らかでコクがあります。渋みが少なく、比較的早くから飲んでも楽しめますが、極上のものは長期間の熟成にも耐えうるポテンシャルの高さを持つものも。

まろやかな味わいなので、飲み手や合わせる料理を選びません。肉料理はもちろん、どんな料理にも合わせやすいのが特徴です。例えば日本の一般的な家庭の食卓では、唐揚げや肉じゃがなど様々なものが一緒にテーブルに上りますが、料理を選ばず気軽に合わせることができます。とても使い勝手が良く、気取らない賢いワインなのです。

こんなワインが好みの方には是非メルローを試して欲しい!

赤ワインメルロー徹底解説

メルローの良さは果実味が豊かでまろやかなワインであること。カベルネ・ソーヴィニヨンのワインを飲んで少し渋さが気になった人は、メルローを試してみてはいかがでしょう。

軽やかで飲みやすいので、特にワイン初心者にはぜひトライして欲しいワインです。また普段ワインをあまり飲まない人と一緒の時はメルローをチョイスするのも。

チリやアメリカなどでは、手ごろな価格でメルローの単一品種ワインが楽しめます。それら新世界のワインは、エチケット(ラベル)に「メルロー」とブドウ品種が表記されているので選びやすいでしょう。

和食の料理にも合わせやすく、日本人には特に好まれる味わいだといえます。ふくよかでやわらかさが身上のメルローと、まろやかな味付けの料理の組み合わせは特におすすめです。例えば肉じゃが、煮込みハンバーグ、すき焼き、ミートパスタ、うな重、焼き鳥、お好み焼きなど、ズラリと並んだ料理は、全て「ザ・日本の食卓」。

これらにぴったりはまるのがメルローなのです。自宅にメルローを1本常備しておくだけで、いつでも食卓がビストロに早変わり。食卓に1本ワインがあるだけで、テーブルに華を添え、会話が弾むきっかけになります。

ワインは特別な日だけでなく、日常的に楽しんで欲しいお酒です。メルローはそんなきっかけを与えてくれるでしょう。

産地別に見るメルロー

①フランス ボルドー地方サンテミリオン地区

ボルドー地方のサン・テミリオン地区は世界遺産にも指定されている中世の美しい街並み広がる地域です。まるで映画の舞台のような華やかさが街全体に広がります。

そんなサン・テミリオンはメドック地区やグラーヴ地区に比べて、シャトー1つ1つの規模が小さいのが特徴です。

②フランス ボルドー地方ポムロール地区

ボルドー地方のポムロール地区は、サン・テミリオンの西にある小さなエリア。

ポムロール地区はボルドー地方で唯一、公的な格付けがないエリアです。サン・テミリオンと同じくドルドーニュ河の右岸に位置します。土壌は粘土質で、メルローの凝縮感に富んだワインが生まれます。

サン・テミリオンよりも、さらに規模の小さいシャトーが多いのが特徴です。前出の通り、世界で最も高価なワインを生み出すワイン産地です。

③アメリカ カリフォルニア

アメリカのカリフォルニアでは、メルローを単一品種としたワイン、ブレンドワインなどを造っています。

カリフォルニア州で一番有名な生産地ナパ・ヴァレー。南部と北部では気温に差があり、北に行くほどは温暖な気候で、メルローはこの北部で造られています。カリフォルニア州ではメルローの単一品種のワインも多くあり、エレガントで凝縮した果実味と深みのある味わいや、スパイシーなニュアンスなどが楽しめます。

④イタリア トスカーナ

イタリアのワイン銘醸地トスカーナでは、メルロー単体で造られるワイン、イタリアワインの主要品種サンジョベーゼと一緒にブレンドするワインなど様々。

ブレンドする場合は、酸やタンニンが多く熟しにくいサンジョベーゼのボディを加える意味で使われることが多いようです。

イタリアのメルローというと、スーパートスカーナと称されるワインが挙がります。

1995年にカリフォルニアワインの父と言われるロヴァート・モンダヴィと、イタリアの名門フレスコバルディのジョイント・ベンチャーとして生まれたワイン「ルーチェ」。2組の天才醸造家がパートナーを組み設立したワイナリーです。

この「ルーチェ」はメルローとサンジョベーゼから造られています。しっかりした果実味、まろやかでクリーミーな味わいは、メルローのポテンシャルが体現され、サンジョベーゼの魅力を引き出したワインと言えるでしょう。

余談ですが、ロヴァート・モンダヴィはフランス五大シャトーの1つシャトー・ムートンと組んで、かの有名な「オーパス・ワン」を造ったことでも有名です。ワイン愛好家なら名前を聞くだけで心が躍るワインたち。こうした様々なストーリーが、ワインをさらに美味しく味付けしてくれます。

まとめ

今回は「【初心者用】メルローの特徴・違い・オススメまで全解説」をお届けしました。

いかがだったでしょうか。メルローにまつわるストーリーは、ワインならではの華やかさとワクワクするチャレンジ精神があふれています。

ワインの世界でスーパースターと言われるワインを生み出すメルロー。それでいて身近に楽しめるタイプのワインも存在し、両面をあわせ持つ、稀有な存在です。

日本ワインの歴史にも大きく寄与しているメルローは、間違いなく日本人の味覚に合うワインの1つです。気軽に今晩の食事に合わせてみてはいかがでしょう。

「社交界の貴婦人、メルロー」が様々な料理とのマリアージュを楽しませてくれるはずです。