ずばりシードルって何?どんなお酒?
シードルとは、リンゴ果汁を発酵させて造る醸造酒です。フランスでは11世紀頃には造られており、とても歴史のあるお酒。日本では数年前頃からじわじわと人気が出始め、大手酒類メーカーからも商品化。一気に市民権を得るようになりました。
「シードル」という響きやオシャレな雰囲気、比較的低アルコールということもあり、女性を中心に人気のお酒です。 世界有数のシードル産地として有名なのは、フランスのノルマンディー地方やブルターニュ地方。これらの地方は、緯度が高く気温が低いため、他のフランス地域のようにブドウ栽培をするには適していませんでした。
その代わり発達したのが、リンゴの栽培。リンゴを使ったお酒のシードルが生まれ、長年愛飲されるようになりました。スペインでは「シドラ」、イギリスでは「サイダー」、アメリカでは「ハードサイダー」、ドイツでは「アプフェルヴァイン」と呼ばれ、世界中で親しまれているお酒です。
リンゴを原料に使って、バラエティ豊かな個性を発揮しているのは、ブドウを原料とするワインとの共通点とも言えます。海外ではビールやワインと並んで、とても日常的なお酒で、中には水がわりに飲まれていた歴史のある国も。
甘いだけでなく、様々な種類や味わいのあるシードルを色々試して、個性あふれるストーリーを楽しみませんか?
ワインとの違いはなに?
シードルはワインと同じく、醸造酒に区分されるお酒です。発酵させて造る点は同じですが、違いはその原材料。ワインはブドウ、シードルはリンゴを発酵させて造ります。またアルコール度数にも違いがあり、ワインは12~13%、シードルは3~8%とやや低めです。
シードルの味わいの特徴
アルコール度数はワインと比べると低めの3~8%程度のやさしい飲み口のものが多く、アルコールが苦手な方やお酒を飲み慣れない方も楽しめるお酒です。
一般的にはスパークリングタイプが多いものの、泡のないタイプや甘いアイスシードルもあります。味わいも、甘口、中辛口、辛口まで様々で、色味も淡いものから褐色のもなどバラエティに富んでいるのが特徴です。
シードルの作られ方と種類
国や地域、作り手によって製法やこだわる点は異なりますが、基本的な工程をご紹介しましょう。
- 収穫: リンゴの収穫は、糖度が上がった完熟した状態のものを選びます。同じ品種でも、収穫するタイミングなどで酸味や甘みが変わってくるので、造りたいシードルのイメージに合わせて収穫時期を選定します
- 洗浄: リンゴの内部に害虫や病気がないか確認するために、リンゴを半分に切ってチェックすることも
- 破砕: ブドウと違ってリンゴは固いので、砕いてつぶします。リンゴの皮も一緒に細かく砕いていきます
- 搾汁: 砕いたものをプレス機にかけて搾ります。この搾汁の方法によっても、香りや味わいに変化が生まれてくるので、造り手が「どんなシードルに仕上げたいか」など、想いが詰まる工程です
- 発酵: タンクの中で酵母を加えて、2~4週間程度、発酵を行います。発酵の期間が長ければ長いほど、多くの糖分がアルコールになるので、より辛口タイプに仕上がります。発酵は1回だけの場合もあれば、2回行うことも。スパークリングワインと同じく、発酵の方法によって、様々なタイプが生まれます
次に発酵のタイプについて、一部ご紹介しましょう。
シードルの発酵のタイプ
- シャンパーニュのように瓶内二次発酵するタイプ:瓶の中に、リンゴ酒や糖分、必要に応じて酵母を加えます。逆さに傾けた瓶を少しずつ回して澱を集める「ルミアージュ」と言われる工程や、瓶の首元に集まった澱を凍らせて取り除く「デコルジュマン」と言われる工程をする場合も。とても手間のかかる製法です。
- タンク内で二次発酵するタイプ:シャルマー方式とも呼ばれます。一次発酵したものを再びタンクに入れて発酵します。大量のシードルを作る時に便利な製法です。
- 瓶内で二次発酵した後に再びタンクに戻し澱引きし、また瓶詰めするタイプ:トランスファー方式と呼ばれます。瓶内二次発酵した後、加圧タンクに移して、澱引きした後、再度瓶詰めを行います。シャンパーニュ方式のように、1本ずつデコルジュマンする手間を省いた方法です。
- 瓶詰: 小規模な生産者の場合は、1本ずつ手作業で打栓を行うところも。
- 貯蔵・出荷: 出来たばかりのフレッシュな状態で出荷する場合や、数ヶ月貯蔵して味を落ち着かせてから出荷されるものもあります。
シードルの有名産地
シードルの有名産地①フランス
フランスのシードル二大産地は、「ノルマンディー地方」と「ブルターニュ地方」です。ノルマンディー地方では、約40㎞におよぶカーブを結んだ「シードル街道」があります。木組みの民家が立ち並び、「ブーヴロン」という花に包まれた「フランスで最も美しい村」としても有名です。
シードルを蒸留すると、リンゴのブランデーに。中でも「カルヴァドス」が有名です。
シードルの有名産地②スペイン
スペインでは、「シドラ」と呼んでいます。「バスク地方」と「アストゥリアス地方」が有名産地。各地域によって味わいも異なるのが面白いところ。バスク産の「シドラ」は酸の強いリンゴが多く、酸味が強めのビネガーのような「シドラ」が生まれ、アストゥリアス産の「シドラ」はやや甘口のものが生まれます。
アストゥリアス地方における「シドラ」を飲用する際の作法を「エスカンシアール」と言います。瓶を頭上にまで高く上げ、その位置からグラスに勢いよく注ぐことで「シドラ」に空気を含ませ、泡立ちを強めるという独特なもの。すぐに飲み干すのがマナーで、ワイワイと盛り上がっている姿が目に浮かびますね。
シードルの有名産地③イギリス
イギリスでは、「サイダー」と呼んでいます。パブではビールとともに人気で、パイントグラスで飲まれるという特徴があります。サイダーを温めたものをホットアップルサイダー、モルドサイダーなどと呼び、寒い時期に人気です。煮立つ直前に、シナモンやオレンジピール、ナツメグなどの香辛料を加えて作ります。想像するだけで温まりそうですね。
シードルの有名産地④ドイツ
ドイツでは、「アプフェルヴァイン」と呼んでいます。フランクフルトやその周辺が産地。「ベンベル」という陶器壺のピッチャーで提供され、切子模様が入った「ゲリプテス」と呼ばれるグラスで飲むのが伝統です。週末になると、「アプフェルヴァイン」を飲みながら観光地をまわる電車が出現するそう。
シードルの有名産地⑤アメリカ
アメリカでは、ソフトドリンクのサイダーと区別するために「ハード」を頭に付け、「ハードサイダー」と呼んでいます。太平洋岸北西部のワシントン州やオレゴン州、五大湖周辺のミシガン州、イーストコーストのバーモント州、マサチューセッツ州などが産地。生食用品種を使ったフレッシュなタイプの他、ベリーやホップを用いたユニークなタイプもあります。アルコール度数はワインよりも低く、ビールのように苦味も少ないので、幅広い層から飲みやすいと人気です。
シードルの有名産地⑥日本
日本で初めてシードルが造られたのは青森県。現在では長野県や北海道などリンゴの産地にも広がっているのが特徴です。昨今、クラフトビール人気もあり、シードルも様々な醸造所が誕生しています。ふじ、紅玉、王林といった食用品種を用いたシードルは、繊細な味わいのものが多く、料理との相性も抜群。
リンゴは日本人にも馴染みが深い果物でもあり、シードルを使っての町おこしや、ユニークな商品の広がりなどが期待されます。
シードルとお料理のペアリング
ワインと同じく、シードルも食中酒です。バラエティ豊かな味わいが揃うシードルは、その選び方次第で万能選手に。ペアリングのポイントを厳選して4つご紹介しましょう。
ぜひ女子会などで試してみては。
ポイント①:シードルの産地と同じ郷土料理を
1つ目のポイントは、シードルの産地と同じ郷土料理をペアリングするパターン。シードルの有名産地、フランスのブルターニュ地方やノルマンディー地方では、郷土料理のそば粉を使った「ガレット」や「クレープ」と一緒にいただくのが定番です。
シードルを注ぐ器は、陶器製の丸いボウル型のピッチャーというのが伝統的なスタイル。熱々に焼けたチーズを入れたガレット、リンゴジャムやキャラメル、チョコレートなどをはさんだ熱々のクレープを冷やしたシードルと一緒にどうぞ。
その他、王道の組み合わせとして、「チーズ」とのペアリングは外せません。ノルマンディー地方は良質なチーズの宝庫。特に青カビタイプのブルーチーズやウォッシュタイプのチーズの有名産地でもあります。個性的な味わいのシードルと組み合わせて。
ポイント②:リンゴが隠し味になっている料理と
2つ目のポイントは、リンゴが隠し味になっている料理とペアリングするパターン。日本人なら誰でも知っている「リンゴとハチミツのハーモニー」が合言葉の某有名メーカーさんのカレーは、リンゴが隠し味。カレーとリンゴはとても相性が良いのです。
玉ねぎをじっくり炒めたチャツネに、リンゴを加えることで、まろやかさとコクを引き出す役割。カレーにシードルのペアリングは、相性がとても良いのです。また和食だと「豚の生姜焼き」とのペアリングもおすすめです。生姜を加える際に、すりおろしたリンゴを少し加えることで、生姜の辛味をまろやかにしてくれます。スパークリングタイプのシードルとペアリングで、さらに相乗効果はマシマシに。
ポイント③:お互いの味を活かしたペアリング
3つ目のポイントは、シードルの「酸味」を活かしたペアリング。例えば、酢飯との相性は意外と良いのです。普段より心持ち寿司酢を多めに加えた酢飯だとさらに好相性。サーモンや大葉を散らし、最後に紅ショウガをトッピング。寿司酢や大葉、紅ショウガの酸味とシードルの爽やかな酸味が絶妙なペアリングを生み出します。
その他、マヨネーズの酸味とも良い相性。例えば、マヨネーズの酸味を活かしたポテトサラダとペアリングを。お互いの酸味がWINWINの関係を引き出し合います。
ポイント④:マイルドにスモークされた料理と
4つ目のポイントは、マイルドにスモークされた料理との相性。例えば、スモークサーモンやスモークチキン、スモークした玉子など。燻製にはリンゴのチップで燻すタイプもあり、そもそもの組み合わせとしても良さそうです。キリッと冷やしたスパークリングタイプのシードルと一緒に。
シードルをおつまみと合わせるなら?
「フィッシュ&チップス」と合わせるのは定番中の定番。シードルが脂っこさを流してくれ、無限ループに陥る美味しさです。
意外と合うのが「ポテトチップス」。特に、甘口の微炭酸タイプのシードルとのペアリングがおすすめです。イギリスのパブでは、ドリンクをオーダーする時に一緒に「クリスプス」と呼ばれるポテトチップスを購入する人が多いそう。意外と間違いのない組み合わせかもしれません。
冷蔵庫にストックされていることの多い「漬物」と合わせてみるのもGOOD。漬物はチーズと同じ発酵食品でもあり、シードルとの相性は意外と良いのです。甘みのある京都のお漬物の代表格「千枚漬け」や「べったら漬け」、独特の味わいの「奈良漬け」や「いぶりがっこ」、塩味の効いた「野沢菜漬け」など。ペアリングを想像するだけで、ワクワクしてきます。
シードルをさらに美味しく飲むには?
同じ品種のリンゴを使っていても、土地や製法、造り手によって味は異なります。
シードルにおいても、ワインと同じように「テロワール」が大切なのです。例えば、斜面は水はけが良いため、必要な水分だけ吸収することが出来て、香りや味わいに好影響を与えます。瓶のラベル情報だけでなく、もし造り手のホームページがあれば、テロワールに関する情報をチェックしてみてはいかがでしょう。
リンゴの産地、製法、造り手の想いを調べながら飲むと、さらに美味しさは増していくような気持ちになります。
またシードルの適温は、6度前後が良いとされています。タイプによって異なりますが、冷蔵庫の野菜室に2時間~3時間ほど入れてから飲むのがおすすめです。
まとめ
今回はシードルを全解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
イギリスでは「一日一個のリンゴは医者を遠ざける」、スペインでは「「毎日のリンゴ一個は医者の費用を節約できる」という、ことわざがあるほど、親しまれ愛されている果物です。日本でもとても馴染みの深い果物で、健康や美容に良いイメージがあります。
きっと今後も女性を中心にシードル人気は広がる予感。シードルを造っている醸造所の多くはワイナリーで、その他にもリンゴ農家がワイナリーにリンゴを持ち込んで醸造する場合や、ビールの醸造元や日本酒の蔵元が造っている場合も。
バラエティ豊かな造り手が増えれば、味の幅も広がり、ユニークなシードルがどんどん増えていくでしょう。醸造所を見学できるところも増えているので、家族やお友だちと訪問しても。ぜひお家でシードルを開けて、様々な食材とマッチングを楽しんでみてください。そのシードルが誕生した産地やストーリー、造り手の想いに触れると、新たな発見に出会えるかもしれません。