アメリカワインの特徴
2008年に公開された『ボトル・ドリーム カリフォルニアワインの奇跡』というアメリカ映画をご存じでしょうか。ワイン業界の著名人によるブラインド試飲会において、カリフォルニアワインがフランスワインに勝ったという伝説の「パリスの審判」を描いた映画です。ナパ・ヴァレーがワイン界で認められた実話をもとにしたもの。ワイン史の歴史を変えた瞬間といっていいでしょう。
今ではフランスの政府機関が発表したO.I.V.の「2021年のワイン生産量ランキング」で、堂々世界第4位にランキングするまでに成長したアメリカワイン。上位はイタリア、スペイン、フランスなど古くからワインを生産してきたワイン銘醸国がひしめく中、キラリと光る存在感を見せています。
アメリカのワインが、世界のワイン市場にデビューしたのは1970年代後半のこと。今ではフランスと肩を並べる品質評価を得、値段も負けないほどになっています。アメリカのように新しくワイン造りを始めた後進国を「新世界(ニューワールド)」と呼んでいます。
一方でフランスやイタリアなど古くからワイン造りを行ってきた国は旧世界と分類。アメリカはワインの後発国でありながら急成長し、ワイン界において一目置かれる存在になったのです。 そんな「アメリカワイン人気の理由」について3つご紹介しましょう。
①ラベル(エチケット)表記がわかりやすい点
「生産者名」「産地名」「ブドウ品種」「ヴィンテージ(生産年)」がシンプルにラベルに記載されているので、初心者も選びやすいのが嬉しいところ。
それはアメリカのワイン法に起因しています。ブドウ品種名をラベルに表示。品種名が表示されているワインを高品質ワインとする考え方を持っています。実は古くからワイン造りを行ってきたフランスなどの国のラベルは、ブドウ品種ではなく、「原産地」だけが記載されているのがほとんど。ということは、自分の好みのワインを選ぶ際、「原産地」情報から「それはどんなブドウ品種で出来ているワインか?」を知識として持っている必要があるのです。この難易度の高さが、敬遠される理由でもあります。
アメリカをはじめとした新世界ワインの「ラベルのわかりやすさ」が、ワイン飲用を広げる大きなカギの1つだと言われています。
②単一のブドウ品種で造ることが多い点
アメリカのワイン法には、「ヴァラエタルワイン(品種名表示ワイン)」という分類があります。ラベルにブドウの品種を表示したワインです。「表示されたブドウ品種を75%以上使用した場合に表示できる」と規定。
そのためブドウ品種の特長をダイレクトにワインに反映しやすいというメリットがあります。ブドウ品種の情報から、ワインのイメージがつかみやすく、選びやすいアメリカワイン。つい手にする機会も多いでしょう。
③わかりやすく美味しい点
アメリカワインは「パワフルさ」を楽しめるワインが多いと言われています。これは温暖な気候がもたらす恩恵によるものでしょう。ブドウが完熟しやすい温暖な環境にあるため、ブドウ本来が持つポテンシャルを表現しやすいのが大きな特長。
「ワインを選ぶ時にストレスが低く、自分のイメージに近いワインを選択できる」となると、アメリカワインが人気になるのも頷けます。アメリカの広大な土地は、産地によって気候が変化に富み、バラエティに富んだワインを生み出します。
アメリカワインの有名産地
アメリカ最大のワイン生産地は「カリフォルニア州」。アメリカ全体のワイン生産量の約9割を占めています。その他では、「ワシントン州」「オレゴン州」「ニューヨーク州」などが挙げられます。アメリカワインの有名産地についてご紹介しましょう。
カリフォルニア州
豊かな太陽、太平洋からくる爽やかな風が吹く温和な気候のカリフォルニア州のワイン産地。中でも高級産地が広がるのは、北部にある「ノース・コースト」というエリアです。海岸からさほど遠くないエリアに集中しています。
「ナパ・ヴァレー」「ソノマ・ヴァレー」が二大銘醸地手。最先端のテクノロジーも導入され、革新的なワイン造りが進められている地でもあります。温暖な「ナパ・ヴァレー」では、重厚なカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローの赤ワインが有名。海に近く冷涼な「ソノマ・ヴァレー」では、シャルドネやピノ・ノワール、ジンファンデルなど多彩なワインが生まれています。
少し昔のカリフォルニアワインというと、大衆向けの品質の低いワインが多く造られていた印象がありました。カリフォルニアワインに変革をもたらしたのは、カリフォルニアワインの父と言われる「ロバート・モンダヴィ」。彼は少しずつ品質のよいブドウに植え替え、上質なワイン造りにチャレンジしていきました。小規模ながら、発酵の方法などの技術革新を積極的に推し進めていったのです。その後ロバート・モンダヴィは、ボルドーの超名門シャトー「ムートン・ロスチャイルド」のフィリップ男爵と、共同でナパ・ヴァレーに「オーパス・ワン」を立ち上げました。カベルネ・ソーヴィニヨン主体のブレンドワインです。「ムートン・ロスチャイルド」は、ボルドーのメドック格付け第一級、五大シャトーの1つ。煌めくほどの有名シャトーとタッグを組み、カリフォルニアワインを一躍世界のワイン舞台に躍り出す立役者になったのです。
「オーパス・ワン」という名前は、音楽用語で「作品番号1番」の意味。『一本のワインは交響曲、一杯のグラスワインはメロディのようなものだ』という考えから命名され、今なおワイン愛好家から憧れの的。新しいヴィンテージが発売されると、世界中から引く手あまたのモテモテワインになりました。
ワシントン州
カリフォルニア州に次ぐ、アメリカの代表的なワイン産地です。フランスのボルドー地方と近い緯度に位置しています。気候は大陸性気候。気温は暑く、乾燥した地で、さらに昼夜の寒暖差が激しく、年間の平均降雨量は非常に少ないのが特長です。そのためブドウの味をギュッと濃縮し、さらに穏やかな酸味のブドウがよく育ちます。
代表的な産地は、「コロンビア・ヴァレー」や「ワラワラ・ヴァレー」「ヤキマ・ヴァレー」が挙げられます。ワシントン州は2000年から2009年にかけて急成長し、ワイナリーの数は約6倍に。ワイン生産者の多くは、自分でブドウを栽培するのではなく、他から仕入れる場合が多いと言われています。
③オレゴン州
上質な「ピノ・ノワール」の有名産地です。フランスのブルゴーニュと似た環境だと言われ、カリフォルニアほど暑くなく、ニューヨークほど寒くないという穏やかな気候が特徴。家族経営のワイナリーが多く、有機農法も広がっています。オレゴン州の赤ワインというと「ピノ・ノワール」、白ワインなら「ピノ・グリ」が定番です。
実はアメリカの中で、ワイン法を厳しく制定している州でもあります。例えば、ラベルに「アメリカ政府承認ぶどう栽培地域」を指す「AVA」を表記する際は、オレゴンでは同じブドウ品種95%以上の使用が必須です(カリフォルニアでは85%以上)。小さな規模の生産者が多く、ブルゴーニュのドメーヌのようにブドウ栽培からワインの醸造まで、全てを手掛ける生産者が多いのも特長。
④ニューヨーク州
「ニューヨークでワインが造られている?」と驚く人もいるかもしれません。マンハッタンの高層ビルが頭に浮かび方も多いでしょう。ニューヨーク州では400年以上前からワインが造られているのです。フランスのアルザス地方やドイツなどと緯度が近く、冬はとても寒い地域です。そのため「リースリング」「ゲヴェルツトラミネール」など寒い地域で栽培されることの多いブドウ品種を産出。
代表産地は「フィンガー・レイクス」「ロングアイランド」。フィンガー・レイクスでは「リースリング」、ロングアイランドでは「メルロー」のワインに人気が高まっています。 アメリカワインでよく見るブドウ品種と味わい 主なブドウ品種の代表格は「シャルドネ」「カベルネ・ソーヴィニヨン」「ピノ・ノワール」。そして、アメリカの固有品種として長く認識されてきた「ジンファンデル」が挙げられます。
「ジンファンデル」は後にイタリアの「プリミティーヴォ」と同じDNAを持つことが判明したことでも知られています。またジンファンデルを使って造った「ホワイト・ジンファンデル」は、やや甘口の淡いロゼワイン。飲みやすく料理にも合わせやすいと、女性に人気です。
「ジンファンデル」とは?
アメリカで多く栽培されているアメリカを象徴するブドウ品種。1990年代後半ごろまでは、アメリカで1番栽培面積の広かった黒ブドウ品種です。温暖で水はけの良い土地が大好き。比較的糖の含有量が多いので、アルコール度数が高いワインに。
冷涼な地域で育ったジンファンデルから造られるワインは、チェリーやラズベリーを彷彿させる赤い果実と酸味のあるワインに。温暖な地域で育ったジンファンデルからは、ブラックベリーやカシスといった黒い果実、スパイスの香りを帯びたワインに仕上がります。ワインの色も濃い目で、ジャムを連想する「ジャーミーなワイン」に。ブドウをギュッと絞ってそのまま飲んでいるような、マッチョな力強さや凝縮感や豊潤さが特長のワインになります。
アメリカワインとおすすめのペアリング
温暖な気候のカリフォルニア州、冷涼な気候のワシントン州など、広大な土地を持つアメリカでは個性豊かなワインが楽しめます。全体的にはボリューム感のある、果実味豊かなワインがアメリカワインの特長です。
料理もワインに負けないパワフルなものと相性が良いでしょう。
ワインと料理のペアリングのヒント
ワインの料理の相性は、「赤ワインには肉」「白ワインには魚」が基本だと言われてきました。ここからもう少し掘り下げてみると、食材を調理した後の色とワインの色と合わせることや、調理方法や使用する調味料を考慮して組み合わせてみて。
これらもワインと料理のペアリングを考える上で大きなヒントになります。例えば、豚肉は食材としては赤色。でも調理をすると白っぽくなる点に注目を。そうすると「肉料理にも白ワインをチョイスする」というヒントが生まれます。「肉には赤ワイン」というチョイスだけでなく、白ワインや赤ワインでも軽やかなピノ・ノワールをチョイスするなどのペアリングの幅が広がり、ますますワインを楽しめるきっかけに。
また時間のある時に、ペアリング実験に挑戦してみませんか。例えば、「塩」「胡椒」「醤油」「レモン汁」といった普段料理に使用する調味料や隠し味を用意して。ひとつまみ口に入れた後、ワインを少し口に含んでみます。調味料とワインのペアリングがシンプルになり、相性の良い料理のイメージがつかみやすくなるのです。ぜひ仲間と一緒に楽しみながら試してみましょう。
カリフォルニア州の「カベルネ・ソーヴィニヨン」には、牛肉料理が最適
カリフォルニア州の「カベルネ・ソーヴィニヨン」には、バターを乗せたサーロイン・ステーキ、牛肉の赤ワイン煮込みとの組み合わせが好相性。果実味がパワフルなワインは、ジューシーなステーキの味をさらに引き立てます。
カルフォルニア州の「シャルドネ」には、クリーム系や揚げ物料理と組み合わせて
カリフォルニア州のシャルドネは、樽熟成のリッチな味わいが特長。生クリームを使った料理やシーフドを揚げた料理との相性は抜群です。
例えば、チキングラタンやクリームコロッケ、揚げ物系では牡蠣フライと一緒に。樽熟成からくるバニラ香のリッチな甘さが、クリームや揚げ物の旨味を引き出し、素晴らしいバランスを生み出します。
オレゴン州の「ピノ・ノワール」には、サーモンや豚肉のソテーを
オレゴン州の「ピノ・ノワール」は、ブルゴーニュのピノ・ノワールに比べて凝縮感やアルコール感が強く、甘いフルーツのアロマが特長です。そんなワインには、外はカリッと中はフワッ焼いたサーモンにバターとレモン、バジルで仕上げたサーモンソテーと組み合わせて。塩コショーとバターでシンプルにソテーした豚肉との相性も上々です。
「ジンファンデル」には、ジャンキーフードと合わせて
果実味の豊潤さを持ち合わせるジンファンデルには、思い切ってジャンキーフードと合わせて。濃い目の味付けの料理との相性が良いでしょう。牛肉のパテをはさんだハンバーガーやフライドチキン、ベーコン、チーズたっぷりのピザと好相性です。ソースをたっぷりかけたお好み焼きとも。
「ホワイト・ジンファンデル」には、エスニック料理や中華料理と
甘口で飲みやすいロゼワインのホワイト・ジンファンデルには、個性の強い料理と組み合わせて。スパイスの効いたエスニック料理や辛味の効いた中華料理との相性は特に良いでしょう。例えば、ピリッと辛めの麻婆豆腐やトムヤンクンなどと。香辛料の辛みや旨みをホワイト・ジンファンデルがバランスよくまとめてくれます。料理の色合いとホワイト・ジンファンデルのロゼ色も華やかにマッチ。
こんな人には是非アメリカワインを試して欲しい!
アメリカワインは、ワイン初心者からワイン愛好者、日常の食事から特別な食事やワイン単体でも。皆でワイワイする場面から一人でじっくり楽しむ場面など、さまざまなシチュエーションで楽しんで欲しいワインです。
アメリカワインの人気の理由は「ラベル表記がわかりやすい」「単一のブドウ品種で造ることが多い」「わかりやすく美味しい」という点でしょう。ワインの知識がなくても、気軽にチャレンジしやすいので、特にワイン初心者に試して欲しいところ。アメリカワインが1本あるだけで、仲間とフランクに、ワイワイと会話が弾む場にしてくれるでしょう。私たちに懐の深さを感じさせてくれる多様性に満ちた、魅力的なワインなのです。
まとめ
今回は、【初心者用】アメリカワインの特徴・有名産地・オススメまで全解説をご紹介してきました。ラベルにブドウ品種が記載されているのでワインのイメージがしやすい、ブドウ本来の味が伝わりやすい、パワフルでわかりやすく美味しいという特長を持っています。魅力は伝わったでしょうか。
ブドウ品種から連想して、ワインの味わいのイメージがつかみやすいので、自分好みのワインを見つけるヒントもたくさん得られそうですね。ディリーで楽しみたいワインから、とっておきの高級なワインまで、あらゆるシーンに寄り添ってくれるアメリカワイン。
あなたのお気に入りの1本に加えてみませんか?選ぶ過程もきっと大きな楽しみを与えてくれるはずです。